腕時計雲上御三家であるパテックフィリップ、オーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタン。
その中でもひと際異彩を放つのがヴァシュロン・コンスタンタンである。マルタ十字をブランドのアイコンマークとした古参ブランドである。
ヴァシュロン・コンスタンタンというブランドを語るのであれば、「伝統重視」「貴族主義」といったところでしょうか。
代表的なシリーズで言えば、往年の名時計を現代に復活させている「ヒストリークシリーズ」。
こちらはヒストリークアメリカン1921 数十年前のデザインを現代的な手法で蘇らせたドライバーズウォッチです。
新しい腕時計を開発しながらも、懐古的な腕時計作りを好むイメージがあります。
おそらくヴァシュロン・コンスタンタンというメーカーは万人受けする腕時計を作ろうとはしていません。ただ腕時計を作る際にはしっかりとしたビジョンがあってそれに共感する誰かが買ってくれればいい。
という様な孤高のスピリットを感じるのです。ヴァシュロン・コンスタンタンを愛する芸能人がイチローさんやタモリさんと聞くと何となくイメージが沸くのではないでしょうか。
そんなメーカーが作る「スポーツクロノグラフ」であるオーバーシーズクロノグラフの質感を見てみました。
オーバーシーズという時計を語る上で外せないのが他に類を見ない独特なベゼル形状です。
まるで大きな歯車であるかの様なその形状。このベゼル尖っている部分がネズミ返しの様な構造になっておりますので実に汚れやホコリが貯まりやすいんです。
普通のスポーツウォッチであればお手入れがしやすいようにベゼルをこんな形にはしません。
だから面白いんですよね。このオーバーシーズという腕時計のベゼルはメンテナンス面からも、製作コスト面からも優秀な形状では無いんです。
でもそれがいい。
現代のスポーツウォッチはどれも「効率」を重視したものばかりです。
より作りやすく、より頑丈で無駄の無い作りになっていっております。
オーバーシーズのベゼルは作る時の鏡面仕上げも絶対に面倒でしょうし、衣服に引っかからない様に角の処理も入念に行わなくてはなりません。
効率的で無いんですよね。
でも効率的なものほど単調で飽きやすいのです。
だから人間はとても非効率な光景や形状を見ると鮮烈に記憶に残すんですよね。
人の目に残る形状だなぁと思います。
裏蓋にはおなじみの「アメリゴ・ヴェスプッチ帆船」のエングレービング。腕時計メーカーってこのアメリゴ・ヴェスプッチデザインが好きですよね~
パネライにも同ネーミングのモデルがありますが、海外での船出の象徴みたいなものなんでしょうね。日本人の桜好きと似たような感覚なんでしょうか。
それはさておき手前に写る観音開きのバックル、私は観音開きバックルの腕時計も良く着けたりするのですが作りこみが甘いメーカーの観音開きバックルは着けてて「痛い」のです。
本当に赤い細い線状の傷が腕に出来て内出血したりしますよね(笑)
このオーバーシーズクロノのバックルは角の面が全て丸く処理されており肌に触れても突っ張らない様になっております。
こういう「着け心地」ファクターは非常に重要でして、やはりアンダー10万円の腕時計と100万円レベルの腕時計の大きな違いはそういうところに現れます。
表面と裏面の仕上げを変えたり、パーツ部分の鋭角を無くすように設計したりと文字盤やケースのデザインだけでなく、日々腕に着ける時の「装着感」を重視した作りになっているか否か。
さすがはオーバーシーズクロノ手首に伝わるバックルとブレスレットの感触は「滑らか」そのものでしたね。
ここ最近のトレンドと言うべきですかね。各社から青い文字盤の腕時計がリリースされております。
このオーバーシーズクロノの青は一見すると紺に見える様な少し暗めの青になっていて、青い文字盤でもカジュアルになり過ぎない様な色味を狙っているのかな?と思えます。
私個人としてはオーバーシーズの青と黒を見比べるとどうしても腕元が爽やかに見える青を選んでしまいます。オン&オフにと意外と汎用性があるのも青文字盤の良いところですね。
カレンダーディスクも2枚のディスクで日付を表示するパノラマデイトになっておりまして、機械好きの時計フリーク達の萌えポイントになっております。
通常のカレンダーディスク1枚でのデイト表示に比べてパーツ数が増加する為プラス評価ですね。
中身はcal.1137、フレデリック・ピゲのFP1185ムーブメントにパノラマデイト表示を追加した作りですね。
FP1185自体が薄型自動巻きクロノグラフムーブメントですのでモジュール追加をしても不格好なほど分厚くなったりはしませんね。
精度の面でも安心安定のフレデリックピゲですので下手にピーキーな完全自社開発ムーブメントを搭載されるよりも信用性はあると思います。
ベゼル部分からバックルに至るまで装着した際に不快にならない様に角を落として造形され仕上げのされた丁寧な作りになっています。
オーバーシーズというと角の立ったトゲトゲしいデザインを思い浮かべる方も多いのではないかと思いますが実際に手に取ってみると非常に「優しい」印象の腕時計になっていますので、100万円オーバーのここぞという一本をお探しの方は手にとって、腕に嵌めてみると印象がだいぶ変わるのでは無いかと思います。