前哨戦-バーゼルフェア1998年
1998年に開催されたバーゼルフェアでセイコーはゼンマイで駆動するクォーツ制御時計、すなわちスプリングドライブの技術発表を行いました。
意外なことにこの機構の発想自体は古く、1970年代には日本とスイスで同じようなことを考えた人達がいたことをご存知でしょうか?
当時ゼンマイがほどけるごく僅かな力で水晶振動子と制御回路を動作させる事の技術的ハードルは極めて高いものでした。
特にごく僅かな電力で動作するICが非常に難物であり、結局実用化の目途が見えたのは1990年代半ばのこと。
長い年月を経てやっと実用化の目途が立つことになりました。
時は1997年。スウォッチグループ傘下の研究機関ASULABが発表した論文にセイコーの技術陣に衝撃を与えました。
水晶振動子で制御されるゼンマイ時計-スプリングドライブとまったく同じコンセプトだったのです!!
セイコーはその年の12月に実用レベルの持続時間(48時間)を実現できる超低消費電力ICを完成。
そして1998年4月、バーゼルフェアで試作機を発表しました。

スプリングドライブの概要図
発表-1999年バーゼルフェア
1999年のバーゼルフェアにセイコーはスプリングドライブを披露しました。
前年の技術発表の試作品ではなく、市販予定品が初めてお披露目されたのです。
その年の12月ついにスプリングドライブが発売されました。市販品世界初の栄冠はセイコーに輝くことになったのです。

初代スプリングドライブSBWA001
実機レビュー

実機着用例
ではここから手持ちの実機のレビューをしていきましょう。
1999年には画像にあるステンレスケースのSWGA001が500本、18KゴールドケースのSWGA002が300本、クレドールから純プラチナケースのGBLG999が100本国内で発売されました。
海外でも発売されたので総数では千数百本販売されたことになります。
私の手元にあるのはステンレスケースのSBWA001です。
直径約36mmと40mmクラスが溢れるようになった今となっては小ぶりなサイズですが、いわゆるデカ厚ブームが来る前はメンズサイズと言うと36~37mm程度が標準的でしたので、発売当時としては常識的なサイズと言えます。
手巻き専用ですのでケースサイズの割に直径が大きく立派な竜頭を採用しています。
この時計は精度維持のために一定以上ゼンマイがほどけるとその時点で時計を停止させる機構が採用されていますが、この機構のおかげでゼンマイを一杯に巻き上げたときの感触が通常の手巻き時計と異なります。
普通は一杯まで巻き上がっても少し竜頭が動きますが、この時計は一切前触れなく急に停止します。
スプリングドライブの未来
スプリングドライブはセイコーだけが出しているユニークな機構と認識されています。しかし詳しい人の間ではセイコー以外にもスウォッチグループが試作機レベルまで到達している事が認識されていました。
スウォッチグループは製品化に踏み切っていませんが、彼らは出そうと思えばきっと出すことが出来る立場にいると考えられます。
そして昨年のジュネーブサロンで遂にセイコー以外のクォーツ制御ゼンマイ時計が現れました。宝飾ブランドとして有名で時計では特に薄型高級機を得意とするピアジェの新ムーブメントCal.700Pです。
セイコーは高級機用としての姿勢を崩していませんし、ピアジェのウォッチも大変高価な物です。恐らくこれからもしばらくは水晶制御ゼンマイ時計は高級品であり続けるでしょう。

ピアジェ・エンペラドール 700P
via www.piaget.jp