真夏の腕に強烈な腕時計を。
ロイヤルオーク オフショアクロノグラフ
26170ST
1993年に誕生したロイヤルオークオフショアクロノ。
当時としては鉄塊と揶揄されるほどの腕時計でした。
それもそのはず36mmのエクスプローラーやデイトジャストが主流だった時代にいきなりシードゥエラーディープシーと同じ大きさの腕時計が出てきたのですから。
イタリア海軍御用達。
近代になるまで軍納入品として機密事項扱いであったパネライ。
そして類まれなる巨体を持つ腕時計。
凝り性な腕時計好きな男たちには堪らない要素。
スペック的には、
40、42、44、45、47mmと幅広いケースサイズを持ち。
ユニタスベースのETAカスタムから、バルジューまんま載せ、自社キャリバー3000、9000などなどムーブメントにおいては多彩である。
かつてはジャガールクルトが中に入ってるものから、今では珍しいソプロド、シェザームーブメントが入っていたりとワクワクするラインナップでございました。
さて真夏の腕時計候補としてはあまりにも有名なこの2本。
この2本を元に昨今のデカ厚腕時計事情を紐解いていきましょう。
デカ厚ラグジュアリーの元祖
ロイヤルオークオフショアクロノとパネライ ルミノールの特筆すべき点は、
普通腕時計の大型市場では高級感のある~と言いながらも実際に大味な腕時計が多い。
そして本来腕時計の歴史とは、
「薄く、小さく」作る事なのである。
我々の祖先は建築物とも言える大きさの時計を、知恵と発明により人間の腕に収まるサイズにまで進化させたのである。
街のシンボルであった時計塔から、家のリビングに置くホールクロック、ポケットに収まる懐中時計、そして腕に巻きつける腕時計へ。
時計の歴史とは小型化の歴史でもあります。
ですから本来は薄型ムーブメントこそが腕時計の華でなくてはなりません。
しかし近年のデカ厚ブームとは本来の腕時計の進化とは全く真逆の動きなのであります。
だからこそユーザーとして見極めなくてはいけないことがあります。
それは
「大きい時計の方が作りやすい」
という事なのです。
各社こぞって大型化した腕時計を発売してますが、大型ムーブメントは部品一つ一つに剛性を十分に持たせる大きさで作る事が出来ますし、ケースの内部容量が大きいですから、自社で使っている大きなムーブメントから、中型サイズのモノまで都合の良い機械を中に入れて作る事ができます。
そうなってくると当然出てくるのが
「原価の安くて大きなムーブメント入れて荒稼ぎしよう」
と考えるメーカーさんですね。
某イタリアの都市名が入っているメーカーさんとかはいい例ですね。
デカ厚ブームにのって低コストでバンバン作ってバンバン売りましたね。
その点パネライはどうなのでしょう?
実はパネライは半々ですね。
パネライは非常に面白いメーカーなのです。
定価に対してめちゃくちゃコスパのいい時計があるかと思えば、定価は3割増なのにスペックが7割になってしまうハズレ型番も存在しています。
それでもOPロゴモデルを除いた手巻きのユニタスと自社ムーブメント搭載モデルは非常に満足度の高い「大きさと高級感」を両立したモデルになっていると思います。
パネライの栄枯盛衰
パネライはサンドイッチ文字盤の手巻きモデルが良い。
まずパネリスティ入門する人にパネライユーザーが送る言葉ではないでしょうか?
パイ生地にクリームを塗るが如くたっぷりの夜光塗料。
見やすい針。
パネライのムーブメントは手巻きに限る。朝巻いた時のメカメカしい感覚は気分をシャキッとさせてくれます。
PAM00001やPAM00111、PAM00372なんかはパネライを満喫する為に最初の一本としてオススメしたいモデルですね。
少数、短期生産の恩恵かこうしたメジャーモデルすら店頭でなかなか買えなかったのはいい思い出でしょうか。
パネライも高級感と大きさを両立している数少ないメーカーではありますが、最近は2010年頃の強烈な人気は無いように感じる。
これはパネライフリークの私だからこそ言えるが、
パネライは飽きられてきている。
それなぜか?
それは強烈なデザインイノベーションを起こせていないからでしょう。
自社製ムーブメント、1950ケースと開発を推し進めていた2007年頃。
この後が続いていない。
インパクトに欠けるルミノール1940デザイン、元祖デカ厚ファンからは疑問だらけのルミノールドゥエ。
結局のところルミノール、ラジオミールに加える新たなエッセンスや、強烈な新デザインを出せずにいる。
なのに似たようなバリエーションばかり増やすから手に負えない。
これじゃあ一体どのパネライがレアなのか?
どうせ買っても次の年に定番ラインにされたら限定買う意味も無くなります。
というのが多分パネライファンの本音ですね。
これは私が今までパネライの腕時計を愛用しているから言えることですね。愛ゆえのムチってやつです。
スマッシュヒットデザインを1つ販売するか、もしくは既存のルミノールとラジオミールという
腕時計に絞って試行錯誤を重ねランゲ&ゾーネの様な職人メーカーに登りつめるしかありません。
2000年台初頭の狂気とも言えるパネライブームを経験した私からすると、今もパネライという腕時計は売れているのですが、心揺さぶられないのです。
特にPAM00590の様な悪夢を繰り返すとユーザーは着いてきませんよ。
プレミア価格100万円で販売されていた北米限定として販売されていたパネライを翌年から定番ラインで発売。最初に限定として買っていた人は1杯食わされた形となりました。
あれはひどかった。。。
1週間ごとに5万円づつ落ちていく相場。中古の時計屋さんですら大火傷してますから。
あれがトドメでした。
飛ぶ鳥落とす勢いで2015年まで急成長したパネライの新品、中古市場も衰退期へ
入ったと思います。
そしてパネライ熱の終息。
それは即ちデカ厚時計ブームのリーダーシップをとっていたパネライの失速。
デカ厚時計ブームに急ブレーキをかける結果になったのである。
各社が目新しい大きな時計を出していますが腕時計業界のムーブメントを作るには到底程遠いです。
それほどに2005〜2015年のパネライの勢いは凄まじかったのです。
何せ買った人がみんな損せず買取してもらえてましたからね。
そのぐらいにパネライ需要は多く、と同時にアンジェロ・ボナーティCEOの「作りすぎず、流行らせすぎず」作戦がガッチリ噛み合った事により他の腕時計メーカーが数十年掛けて行う海外戦略を10年足らずで完遂したのである。
リシュモングループに所属したのが1998年、そこから20年でパネライという名前を知らない時計好きはいない、と言わしめるまでに成長したのである。
そんなパネライの栄枯盛衰を眺めながらデカ厚ブームの沈静化を感じる今日この頃でありました。
しかしそんなデカ厚市場にもまだ生き残った兵(つわもの)がいたのでした。
オフショアクロノは焼け炭の如く
2010年〜2015年という年代はパネライというブランドの中古市場が最も賑わっていた時代である。
これは逆に見れば「デカ厚モデル」という選択肢を考えた場合どうやってもパネライという存在が無視できない事と同義である。
と言うことは他社から見れば
「デカ厚で勝負するならパネライと競合せざるを得ない」
という事でした。
パネライというメーカーは化物です。
ユニタスの極限カスタムムーブメントが入った手巻きルミノールが中古で40万円から、
自社ムーブメントcal.9000を積んだ自動巻きルミノールが中古50万円台から、
手巻き47mmの自社ムーブメントcal.3000搭載個体が中古60万円台。
そしてどれも一目見れば覚えられるどこか可愛い、でも色気のあるルミノールデザイン。
新品でも手巻きルミノールベースなら50万円から。
こんなとてつもなくコスパの高く、知名度もある強豪と戦わなければならないのです。
同業他社から見れば眼の上のタンコブでしかありません。
一体各社どのくらいのシェアを食べられた事か…
その内の1人がオーデマピゲ オフショアクロノ。
奇しくもパネライの一般消費者向け販売開始が1992年、ロイヤルオーク オフショアクロノの発売が1993年。
お互いに現代の腕時計業界に産み落とされて25年。
スターダムを駆け上がり、飛ぶ鳥落とすが如く売れ続けたパネライ。
オーデマピゲのフラッグモデルの1つとして君臨し続けたロイヤルオーク オフショアクロノ。
抑えながらも生産本数を増やし、他社からのムーブメント買い付けと自社ムーブメント開発で生産能力を増強し続けたパネライ。
一方未だにファミリービジネスを続け年間生産本数5万本にも満たないオーデマピゲ。
パネライというデカ厚業界の巨人にシェアを奪われても、変わらず進化し続けたロイヤルオーク オフショアクロノ。その熱は黒炭の如く静かに燃えていたのであった。
次のページに続きます。
デカ厚時計のキーワードは「ホンモノ」の時代へ
はじめに言っておきますが、これから述べる事は私見です。
ロイヤルオークオフショアもパネライもどちらも所持している私の私見です。
パネライのルミノールとロイヤルオークオフショアを比較すると、
仕上げの美しさ、希少性、ブランディングどれをとってもロイヤルオークオフショアクロノに軍配が上がります。
数値に表せないですが炎天下の日中時計を見た時のビジュアルの差は特に顕著です。
オフショアクロノは見る度に幸福感に近い感情が湧いてくるのです。
それはサテンと鏡面のコントラストや八角形の特異なベゼルデザインによるものもあります。
でもそれ以上にオーデマピゲユーザーの方は実感していると思いますが、近年のオーデマピゲのステンレスの仕上げは他の追随を許さないほどに美しいです。
2012年以降発売のモデルのサテン仕上げは芸術の域です。
ロイヤルオークオフショアクロノもパネライのルミノールにシェアを食われた一勢力であることには間違いないのですが、その間オフショアクロノも進化を続けていました。
26170STからは中身を完全自社ムーブメントに置き換え、26470STではラバーバンドの質感と劣化しやすかったラバー製のボタンと竜頭をセラミックへとマテリアルチェンジしました。
限定モデルに関してはどれも素材や設計から全く別物に。
出せば即完売が当たり前になっております。
そしてここ5年間の製品の外装仕上げは圧倒的に良い。
サテン仕上げが光って見えるのはロイヤルオークぐらいでしょう。
中古市場でも2015年位に沈静化していたロイヤルオークオフショア市場がここにきてガンガン盛り上がって来ています。
何故なら生産本数の少なさからか、未だに欲しかったけれど買った事がない人多いと言う事。
それは先程述べた通り未だにファミリービジネスを続けているオーデマピゲだからこそ。
デカ厚なのに59石ものルビーを使用した本格的な自社ムーブメントを搭載しております。
今はインターネットで中身のムーブメントのスペックもすぐに丸裸ですからねー。
情報が溢れている時代だからこそ、消費者は多くの情報を持ち合わせております。
そして一点豪華主義時代。
普段節約している人も好きなものにはトコトンお金を使う時代です。
ですからデカ厚時計と言えども中も外も隙の無い「ホンモノ」が求められているのだと思います。
そして2017年夏、ホンモノのデカ厚時計として君臨する戦いでは若干ロイヤルオークオフショアクロノに軍配が上がるような気がします。
パネライの栄枯盛衰とロイヤルオークオフショアクロノの復権が垣間見える現在のデカ厚時計市場。
この先はきっとブームと言うよりはビックウォッチという1つの定番ジャンルになるのだと思います。
2017年、2018年の夏ファンの心を掴むのはルミノールかオフショアクロノか?
世に生まれ落ちて25年の節目の年、両雄が再び相見えるのであった。
それでは途中から書きたいことがごちゃごちゃになりましたが今日はこのあたりで。
ではまたー。