IWCのメイン・プロダクト「パイロットウォッチ」
Supermarine Spitfire Mk IX: The 360-degree Cockpit Tour by IWC
IWCといえば僕の中では絶対にパイロットウォッチです。理由は初めて知ったIWCの時計がパイロットウォッチだったからです。IWCは2000年以降世界的な認知度が上がった印象があります。ちょうどその頃にリシュモン傘下となった時期と重なり、グループでの効果的なプロモーションによって知名度が格段に向上したのです。
IWCのパイロットウォッチはイギリス空軍の名機「スピットファイアー」の名前を冠したコレクションを2003年からリリースしています。上のIWCのYouTubeがそのスピットファイアーのコクピットツアーとして紹介しています。
パイロットウォッチの歴史
パイロットウォッチは1936年に民間用の耐久性の高い時計として初めてリリースされました。当初は低温に強いことをアピールしていました。-40℃〜40℃まで使えるとして、寒いコクピット用時計として開発されたのでしょう。決してパイロットウォッチはスピットファイアーの乗務員に対して軍用品として提供された時計ではありません。
Royal Air Force=英国空軍(RAF)はマークⅪを1949年から1981年まで、正式採用しました。それが上の写真です。これは当時飛行監視員向けに使われたとIWCのアーカイブに記録されています。
この1949年発表のマークⅪはストラップがファブリックス製で、12、3、6、9時にオレンジのドットを配色しデイト機能も無く、ミリタリーウォッチらしい外観が特徴です。ミリタリー色は強いけど、何となくアウトラインは現行モデルの雰囲気があります。パイロットウォッチのDNAはこの頃から引き継いでいることは間違いありませんね。
そのヘリテージモデルが2020年現行品モデル「パイロット・ウォッチ・オートマティック ・スピットファイア」です。1936年当時のレガシーを受け継ぎ視認性を高めるため、針を少し大きめの菱形へ変更しています。さらに現代風にデイト機能をプラス、パワーリザーブは72時間までUPしていることが特徴です。これぞヘリテージモデルといわんばかりのアレンジに好感が持てます。
裏蓋にはそのスピットファイアーの機影を施した、エングレーブがあります。裏蓋の高い防水性(6気圧)は急激な「気圧変化」を考慮してのものになります。スピットファイアーのエングレーブをすることで「大空」をイメージすることができます。
もちろん当時そのままのファブリックスタイプのモデルもあり、選択肢が多いことも嬉しいです。カーキーグリーンのファブリック・ストラップにはIWCらしさを失わない写真のようなカチッとした造りと仕上げになっています。
「パイロット・ウォッチ・オートマティック ・スピットファイア」には自社製キャリバー32110を搭載しています。下の写真で確認できるようにかなり薄く仕上げてその分パワーリザーブを向上させていることが素人目でもわかります。伝統的なブラック文字盤とカーフスキンのストラップを採用してデザイン的には当時の雰囲気を継承しつつ、普段使いもできるモデルです。
薄くできた理由は部品にシリコンを使用したためです。薄くできたことで耐磁性ケースにムーブメントを収めています。このことで磁気が強いコクピットの使用でも問題ありません。現役のパイロットでも使用できる時計ですが、旅客機のパイロットでは僕は見たことがありません。
民間機パイロットがよく付けている腕時計はワールドタイム機能があるモデルが好まれます。もし旅客機パイロットで好みのIWCパイロットウォッチが見つからないという人には上のモデルがおすすめです。
写真のモデルは「パイロット・ウォッチ・タイムゾーナー・スピットファイア “ロンゲスト・フライト」になります。
2つの異なる時間帯を表示できるいわゆるGMT機能を備えた時計です。長期距離飛行用のモデルになります。しかしこのモデルの難点は少し大きく(46㎜)、厚みも15㎜あることです。それだったら、ポルトギーゼの方を選択しますね。
さてその後1994年にリリースされたのが上の写真、名機「マークⅫ」です。トムクルーズ主演映画「バニラスカイ」にも登場したモデル、マークⅩⅢ(ⅩⅤという説もあり)に雰囲気が似ています。僕はこの映画のオープニングで出てくるシーンで「パイロットウォッチ」のファンになったひとりです。
オープニングでトムクルーズがベットで起き上がりながらパイロットウォッチを付けて運転中に時間を確認するシーンは本当印象的でした。裕福な経営者が亡くなった後の2代目という役割とパイロットウォッチがリンクしています。この映画でIWCがスポンサードしたのか、スタイリストがたまたま選んだのか?こんなことを想像することが僕は好きです。
この頃からより現行モデルに近い文字盤と外観に仕上がっています。マークⅪの頃のミリタリーウォッチさは無くなり、黒一色でシックに仕上がったことでカジュアルウォッチとドレスウォッチの中間路線、最近の「IWCらしさ」が出てきていることが特徴ですね。
パイロットウォッチ何がすごい?
さてパイロットウォッチ何が凄いのか、もういちど振り返りましょう。
こうして見ると、ラウンドケースにアラビア数字とデイト(日付)表示があるシンプルな三針時計です。しかしインデックスにアラビア数字を使い、12時の位置に夜光マーカーを塗り暗闇でも見える工夫がしていることが特徴です。
シンプルな時計で、他ブランドでもライバルモデルは多く、人によってはそれらライバルモデルを選ぶ人も多いです。僕はこのパイロットウォッチの優れた点は「搭載機能」の取捨選択です。パイロットウォッチのベーシックモデルには夜光塗料、デイト機能、ドーム型風防、6気圧防水を備えています。
例えばよく比較されるモデルEX1はデイト表示がありません。これはEX1は「洞窟探検家」向けに造られたモデルである、そのために日付表示を外しているのではと想像できます。しかしその後出たEX2ではGMT機能もデイト機能も付けて発売されたのです。
その点IWCはベーシックモデルのコンセプトを崩しません。パイロットウォッチもその基本部分は歴代のモデルを見ても変わらないです。顧客のさまざまな要望に対しては限定モデルで対応しています。
僕が考えるパイロットウォッチの優れたところはIWCらしさが最も出ている点です。
IWCはスイス時計ブランドの中では異端児的な、ドイツに国境に近いシャフハウゼンで時計造りを行っています。僕がグーグルマップに記したリンクで見ると一目瞭然です。
ブランド発祥の地が他のスイス時計ブランドと距離を置いていることで、ドイツらしい質実剛健さがある点を多くの専門家たちが指摘しています。
僕は前述の「取捨選択」の決断力に見える「知的な姿勢」に好感を持っています。
皆さんもこの機会にポルトギーゼから脱却して、パイロットウォッチにも注目してください。