名勝負その1 アポロ月面着陸計画採用対決 オメガ VS ロレックス
「1960年代の終わりまでに人類を月に送る」。宇宙開発競争でのソ連に対する遅れを一気に取り戻すべく、米国ケネディ大統領は61年の一般教書演説でそんな無謀ともいえる計画をブチ上げました。この瞬間、ムーンウォッチの称号をめぐる戦いの火蓋も切られたといっていいでしょう。船外活動を行う宇宙飛行士には腕で正確な時を刻む時計は最重要ギアです。もし月面着陸が叶うなら、そのとき彼らはどんな時計をするのか?世界の時計好きの大きな関心事となりました。
むろん未曾有の国家プロジェクト遂行中のNASAに、独自に時計を開発しているゆとりはありません。となると、メーカー既存モデルから最強の1本を厳選するのが唯一の選択肢です。そこで白羽の矢を立てたのがオメガ、ロレックス、ロンジンのクロノグラフでした。
このうちロレックスは同時期に開発したクロノ=デイトナにコスモグラフの名を冠しており、宇宙(コスモ)で使われることに対し相当な自信と憧れがあった節がうかがえます。しかし、宇宙の11の極限状況を再現したNASAの試験は超過酷で、すべて耐えたのはオメガのスピードマスターのみでした。結果この時計が65年にNASA公式採用となり、遂に69年、アポロ11号の人類初の月面着陸に同行しました。
なお、「月」では後塵を拝しましたが、今もデイトナはコスモグラフを名乗り続けています。これは人類が本格的に宇宙へ大進出したとき、改めて主役を奪取するという意味でしょうか。再び両雄激突する日は意外にに近いかもしれません。
オメガ スピードマスター・プロフェッショナル
Ref.3573-50
高温&低温テスト、気圧テスト、耐衝撃テスト、加速度テストなど、宇宙空間で想定される11の極限状況を再現した過酷なプログラムを、スピードマスターだけが見事耐え抜きました。
プロフィール
①もともとはカーレーサー用モデルで最初から宇宙を意識してはいませんでした。
②NASAのテストプログラムに唯一合格し、スピードマスターといえば「宇宙」というイメージになりました。
③いまだに手巻きにこだわり続けているムーンウォッチです。
ムーンウォッチとして有名ですが、タキメーターが象徴する通り、当初はモータースポーツでの着用を意識した屈強クロノグラフとしてデビューしました。今なおオリジナルと同じ手巻きムーブをラインナップしているのもファンのツボです。
ロレックス コスモグラフ・デイトナ
Ref.116515LN
人気・実力ともクロノグラフの王道と呼ぶに相応しい地位に君臨しています。
プロフィール
①あくまでも推察ですが、「コスモグラフ」と名付けたということは、宇宙を目指していたかも。
②これも推察ですが、加えて「デイトナ」と名乗ったのはモータースポーツへの道も残したのかも。
③宇宙へは行けませんでしたが大人気となり、スポーツクロノグラフの代名詞的存在になりました。
よく考えるとコスモグラフデイトナとは、宇宙とモータースポーツを合体した不思議な名称です。じつは最初期の1960年代モデルにはデイトナ表記がないものも存在しています。もしかすると、月面競争に敗れ、レース色を強めていったのかもしれません。
名勝負その2 天才時計デザイナーの哲学対決 ジェラルド・ジェンタ VS F.A.ポルシェ
1970年代末、それは2人の天才が相まみえたことで、記憶されるべき時となりました。対決の舞台はIWCです。歴史あるこの時計メーカーが同時期に2人の天才を招聘しました。1人は稀代の時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタです。もう1人はカーデザインを出発点に、この頃ウォッチデザインにも進出していたF.A.ポルシェです。
2人には似たところがありました。既成概念を軽やかに打ち砕く強さです。ジェンタは、モダンなアプローチで「インヂュニアSL」のような革命的なデザインを世に送り出しました。ポルシェは異分野のアイデアや技術を導入することで、チタニウムケースのような過去に類のない時計を世に問いました。
才気あふれる2人のデザインは、人気を集めただけでなく、ウォッチデザインの可能性を拡張しました。一歩も退かない両者。対決はドローでした。結局、勝敗がつくことはありませんでした。勝者がいるとすれば、それは夢のマッチメイクをさせたIWCだったかもしれません。
ジェラルド・ジェンタ
1931年スイス生まれ。当初ジュエラーを志すも23歳でデザイナーに転向。1972年自身の名を冠した時計メーカーを創業。2011年没。
プロフィール
デザイン哲学・・・美の追求!?
出発点・・・ジュエリーデザイナー
功績・・・ステンレス製でも高級時計になることを知らしめた
代表作・・・ミッキーマウスウォッチ、オーデマピゲ「ロイヤルオーク」、パテック フィリップ「ノーチラス」、カルティエ「パシャ」、ブルガリ「ブルガリブルガリ」など多数
1976年 IWC インヂュニアSLをデザイン
1976年、初期モデルより優れた耐磁性で人気だった「インヂュニア」がリニューアルされます。このとき、デザインを担当したのがジェラルド・ジェンタ氏です。ダイバーのヘルメットから着想を得たそのデザインは、剥き出しのビスがベゼルを飾るもので革命的といわれました。
Ref.IW323902 ※画像はインヂュニアSLではございません
F.A.ポルシェ
1935年ドイツ生まれ。1972年ポルシェデザイン設立。自動車、カメラ、サングラスなど手掛けたデザインは多岐にわたる。2012年没。
プロフィール
デザイン哲学・・・機能がデザインを決める
出発点・・・ポルシェ911をデザイン
功績・・・チタニウムケースを進化させた
代表作・・・ポルシェデザイン by IWC「オーシャン2000」
ポルシェデザイン by IWC「チタニウム クロノグラフ」をデザイン
IWCとの業務提携が1978年に成立し、その2年後、F.A.ポルシェ氏は画期的な時計をデザインします。当時の最先端素材チタニウムを先取りした「チタニウム クロノグラフ」です。これが記念すべき世界初となるチタニウム製ケースを採用したクロノグラフとなりました。
ポルシェデザイン チタニウム クロノグラフ
名勝負その3 男の黒文字盤対決 エクスプローラーⅠ VS マークⅩⅡ
1953年に誕生したエクスプローラーⅠは、一流の冒険家に愛用されたという出自も相まって、長らくオス度の高い3針黒文字盤の王者として君臨していました。しかし、その一強時代が揺らいだのが90年代後半です。皮肉にも人気が高すぎて世界的に品薄になっていた隙をつく形でマークⅩⅡがブレイクしました。ルクルト製ムーブを搭載し、過酷な加重テストを経て製作されるこのパイロットウォッチは、質実剛健を愛すドイツ国民の間でまずヒットしました。それが世界中に伝播する形で注目され、エクスプローラーⅠの強力な好敵手となりました。
エクスプローラーⅠ
Ref.214270
1953年に探検家エドムンド・ヒラリー卿が世界で初めてエベレストを登頂したことを讃えて発売された歴史的名品です。
マークⅩⅥ
IW325501