時計Begin 創刊
通算85冊(2016年11月現在)を発売してきた時計雑誌である時計Begin。
今後時計Beginを中心に様々な時計専門誌を創刊号から順を追って振り返りつつ、ブランド時計を取り巻く業界がこの二十数年間でどのような変遷を辿ってきたかをまとめていきたいと思う。
手元にある創刊号を見てみると、発刊が1993年8月となっている。実に23年以上も前である。1993年といえば、ちょうどJリーグが開幕した年だ。その時のことは覚えてはいるが、かなり昔の記憶のことのように思える。
さて、創刊号の第一弾目の特集は「10万円以下で買える時計の選び方」
「10万円以下」という値段設定に、若干の違和感を覚えつつ、そういえば当時は10万円も出せば、タグホイヤーや、オリス、オメガなどの有名ブランドでも手の届くモデルが確かにあったなと、隔世の感あり。
私も買いました タグホイヤー
私もちょうど中学1年生のお正月に、それまで貯めたお小遣いと、その年にもらったお年玉を全てつぎ込んで、タグホイヤーの3000番をかなりの無理をして買った。

サンプルイメージ画像 タグホイヤー3000
確か、定価9万6000円にいくらかの割引があったと思う。コンビのモデルで、何度も何度も箱から出したりしまったりして眺めていた記憶がある。
当時はバブル時代の最後の方ではあったけど、まだまだ景気はよかったのかな。中学1年生にしてその時計は、やはりかなりの贅沢だったと思う。
久しぶりにこの本に目を通して気づかされるが、そう言えば当時はこんなモデルが流行ったな、とか、今は聞かなくなったな、というようなブランドもちらほら目につく。
また、こんなに安かったの?と目を疑いたくなるようなものもあったりで、時間が経つのも忘れて見入ってしまうこと暫し。
例えば「10万円ロレックス」と銘打って、50年代から80年代に生産されたアンティークな手巻きモデルを紹介している記事もあるが、革バンドに変更されているとはいえ、さすがに今はこんな値段では買えない。
タグホイヤー絶好調!
特集Ⅱ「ボーナスで買う一生モノの時計」では、個人的には、オメガ シーマスター120とタグホイヤーのS/ELが当時のモデルの中ではお気に入りで、セナモデルで有名なタグホイヤーのS/ELシリーズは、初期のものを大切に身につけている人を今でも見かけることがある。
あの蛇腹のブレスを初めて見たときは衝撃的だった。遠目に見てもそれと分かるデザイン。その後、2003年にリンクへと引き継がれるが、個人的にはS/ELシリーズのあの蛇腹がどうにもこうにも魅力でそそられる。
バブルの名残か・・・
特集Ⅲでは、「最注目ブランド19 これだけ知ってればOK」ということで、ロレックスをはじめ、IWCやパティックフィリップなどのブランドの歴史や主力モデルが紹介されている。
ちなみに、紹介されているブランドは、ロレックス、IWC、グッチ、ラドー、パテック、ブレゲ、バセロン、ジャガー・ルクルト、ユリス・ナルダン、エベル、ウブロ、ホイヤー、フランクミュラー、オメガ、ブライトリング、セイコー、ブランパン、カルティエ、オーデマピゲ。
今となっては、何故に?と思ってしまうブランドもあったりするが、その辺りは時代ということもあるのかもしれない。
この時代にすでにフランクミュラーの名前がここにあることは、非常に興味深い。なにせ当時彼は34歳だったのだから。

フランクミュラー氏
当時としては貴重な情報源
特集Ⅳでは、全国の優良時計店が紹介されている。その数なんと126店。
北海道から、沖縄まで、関東のお店が多いものの、それでも当時としてはかなり網羅されていると思う。なにせ、インターネットなんてまだまだ普及していなかった時代。
当時は、自分は大阪に住んでいたので大阪の時計屋さんは大小含めてかなりの数を回っていたが、今見てみるともうおそらくなくなってしまったお店も少なくない。
というか閉店してしまった店の方が多い。また今ではかなり大きくなって有名なお店になったところでも、この当時はこんなに小さなお店だったの?というようなものも掲載されていて、非常に興味深い。
さらに言うと今でも現役で活躍されている方もおられ、その皆さんの写真がお若いことお若いこと。
お店もさることながら・・・そこに掲載されている時計の値段ときたら・・・これはなんとかしてタイムマシーンでも作って、過去に戻りたいと思うのは私だけではないはず。
少し紹介すると、手巻きデイトナ6265のティファニーダブルネームが98万円也。
ダブルネームではない通常モデルでも400万円オーバーの昨今、出所がしっかりとしているダブルネームであれば、いったいいくらの値段がつくのだろうか・・・。
ちなみにこのモデル手持ちの「世界の腕時計」では広告欄にまだデッドストックがあるとの告知がある。
さすがにデッドストックだと当時でも値が張るだろうけど、手巻きのデイトナをデッドストックで手に入れることができるなんて幸せな時代だ。
そういえば、母親のロレックスの日本語説明書のコスモグラフデイトナのページの画像は手巻きモデルだった。
他にも、エクスプローラⅠの70年代1016が28万8000円、サブマリーナノンデイト新品が22万8000円、デイトナ16520が新品で79万8000円也。
実にいい時代だ。この当時に学生でお金をもっていなかったのがどうにもこうにも恨めしい限り。
まとめ
創刊号ということもあってか、特集も一般的なもので幅広い層の人たちに向けて発信されていたのだろうなということがみてとれる。
また、インターネットなどない時代において、我々が得られる数少ない情報源であった紙の媒体は、当時は本当に貴重なもので、何度も何度も読み返しては、お気に入りの時計屋さんに行って、そこの主人から直接色々な情報を得るということを休みの日ごとにやっていた。
当時よく通っていたお店は、もうほとんどなくなってしまっていて、お店の主人がその後どうしているのかなんて知る由もないけれど、まだ時計屋さんをしているのかな。
そして何より、当時、少し値の張る敷居の高い時計専門誌はあったものの、この時計Beginのようにカジュアルに高級腕時計を紹介してくれる雑誌がこの時代に産まれたのは、日本の腕時計業界においては意義深いことであったように思う。